【書評】『社会人英語部の衝撃』The BBB編集長・清涼院流水(著)


Amazon.co.jpが選ぶ「2001-2010年の殿堂入り著者20人」にも選ばれた森博嗣(もりひろし)さんの、デビュー作『すべてがFになる』が武井咲さん・綾野剛さんのダブル主演でドラマ化されます。

すべてがFになる – フジテレビ公式サイト(初回放送 2014/10/21)

森博嗣さんは、講談社メフィスト賞の第1回受賞者。そして第2回受賞者が今回とりあげる、『社会人英語部の衝撃』の著者である、清涼院流水(せいりょういんりゅうすい)さんです。

TOEIC満点作家の流水さんは、2012年12月に作家の英語圏進出プロジェクト「The BBB: Breakthrough Bandwagon Books」を立ち上げ、小説などの厳選コンテンツを全世界に発信する活動もされています。森博嗣さんの短編作品も、流水さんの手で既に英訳されています

The BBB(作家の英語圏進出プロジェクト)

・IT Media記事 – 海外の電子書籍市場で日本の小説を売るということ ― プロデューサー清涼院流水に聞く (2014/05/16掲載)

さて、Amazonレビュー風に『社会人英語部の衝撃』を5つ星で評価させて頂くと、自分の評価は星4つ(★★★★)です。絶賛ではないですが良書と感じるので、以下、詳しくご紹介します。

(※ 自分はThe BBBのサイト管理人を担当していて、長年、流水さんにお世話になっているんですが、義理で著書を紹介する気は全くありません。今後もこのブログでは、あくまで「読者に本当に役立つと感じた本」のみ取り上げたいと思います。)

切磋琢磨できる仲間の存在

一言で要約すると

ストーリー形式で、TOEICの勉強法が学べる本

です。ストーリー形式で楽しみながら学べる本というと、ミリオンセラーとなった『もしドラ』や『夢をかなえるゾウ』が有名ですね。

まず、全体の概要紹介に便利なので、樋口裕一さんの著書『差がつく読書』で紹介されている「実読」と「楽読」について触れてみたいと思います。

樋口裕一(著) 『差がつく読書』「実読」と「楽読」

この実読・楽読形式で、『社会人英語部の衝撃』のバランスを表すと、だいたい、【実読(英語学習)50%】、【楽読(ストーリー)35%】、【実読(自己啓発)15%】ぐらいかなと感じました。

実読・楽読グラフ『社会人英語部の衝撃』

【 実読(自己啓発)15%】というのがイメージしづらいと思いますが、具体的には、

人生が変わるのは、常に、一瞬のできごとなのです。自分にとって重要な『気づき』を得た瞬間、人生は絶対に変わります。[P156]

一生懸命に自分を磨き続けている人たちには、他人のアゲ足を取る必要などないのだろう。[P193]

順番に990点を達成し始めた仲間たちの存在が、「自分も、やればできるはずだ」と信じる心を強化してくれた。[P212]

と言った記述です。人生に役立つ言葉がちりばめられていて、特に後半部分では、「切磋琢磨できる仲間の重要性」が伝わる内容となっています。

【 楽読(ストーリー)35%】は、通常の小説と同じように「読んで楽しい」要素です。本書が面白いのは、登場人物が実在している、ノンフィクション小説である点です。(※ なお、英語部とは、清涼院流水さんが代表をつとめ、定期的に開催している勉強会のことです。)

英語部のキャプテン田中正人さん(@captaintoeic_19)、プロインタビュアー早川洋平さん(@kiqtas)さんなど、気になった登場人物を検索すると、ブログやツイッターがすぐに見つかると思います。ゆうゆえもんさんのブログでは、「英語部に入部して良かった」という生の声が伝わってきます。

本の帯に問題あり!?

【実読(英語学習)50%】について見る前に、「ここは良くなかったな」と思う点も、正直にあげておきましょう。

『社会人英語部の衝撃』帯

・帯の英語部平均点が、「TOEICテスト 300点台 ⇒ 912.4点」の記述

これについては、英語部の活動後半から、OJiMさん(@IvicaOjim)・Rabbitさん(@rabbit_toeic)・VOZEさん(@VOZE_TOEIC)・みかん星人さん(@mikan__seijin)などTOEIC高得点者が加入して、平均点が跳ね上がった側面が強いです。

読者としては、ニューヨーク・ヤンキースやレアル・マドリードの補強のように、ぞくぞくと有力メンバーが加わる印象を受け「そりゃ平均点あがるでしょーよ」と悪態をつきたくなると思います。(初期メンバーも大幅スコアアップしてるので、勉強法の有用性の面では問題ないと思いますが)

僕は出版関係者の友達が多く、「帯の大事さ」「タイトルの大事さ」の話しをよく聞くので、商業的にある程度しょうがない面もあるとは思いますが、Twitterなどのソーシャルメディアが発達した現代は特に、こういった「読者が愚痴をはきたくなるような記載」は止めた方が良いのではないでしょうか。

・登場人物の多いストーリー(特に後半部)

これは読んだ人の好みによると思いますが、ストーリーについては、後半になるにつれて、登場人物が多く、感情移入しづらくなると感じましたね。英語部メンバーを褒めちぎる記述もやや気になりました。

・・・と、まぁ個人的な不満点はこれぐらいです。多くの読者にとって気になるのは「この本を読んで英語学習に役立つか?」だと思うので、【実読(英語学習)50%】要素について以下、10箇所ご紹介します。

TOEIC学習の基本は、新公式問題集 [P12]
新公式問題集を1冊完璧にしたら730点は獲れます。[P15]

リスニング力を高めるには、発音のルールを知る必要があります。語学には『自分で発音できない音は聴き取れない』という絶対法則があるんです。[P31]

日本人が英語を聴き取れない理由のひとつは、まず『単語単位で正確な音が聴き取れない』ということです。(中略)もうひとつの理由として、『単語と単語がつながった時の音の変化を知らない』ことが挙げられます。[P49]

英語をマスターする上では、文法のルールを知ることが、実は最短のショートカットなのです [P61]

TOEICの模試や問題集で英文を読む時は、主語と述語動詞を見つけ出して『英文のコア』を常に意識する癖をつけましょう。[P63]

『きちんと学んだ音を聴き続ける』というのが、リスニング力を高めるいちばんのショートカットなのです。[P67]

まず英単語の記憶が定着しにくい最大の理由は、復習の頻度が少なすぎることです。[P74]

英語力を効率的に高めるためには、精度の高いものさしで英語力を定期的に測定することが、もっとも効果的です。
  よく『TOEICハイスコアでも英語を話せない人がいる、だからTOEICは信用できない』という批判をする人がいますが、それは『健康診断で数値が悪くても元気な人がいる、だから健康診断は信頼できない』というのにも似た、ピントのズレた指摘です。[P122]

(※ 上級者の)リスニングは倍速を基準に [P140]

自分にとって難しい問題だけをICレコーダーなどで録音し、その『難問ファイル』を試験前の時期に集中的に聴き返す [P177]

他にも多数ありますが、長くなるのでこの辺で。勉強法については、たしかに役立つ記述が満載です。

「四角メソッド」「カンニング英訳」「スムーズ暗唱」等のメソッドは、図つきで分かりやすく紹介されています。また、『総合英語 Forest』・『オバケの英語』・『新TOEIC TEST 全力特急 絶対ハイスコア』などの厳選された英語本が10冊ほど紹介されているのも嬉しいところ。

本書は大前研一さんの「実践ビジネス英語講座」メールマガジンで詳しく紹介された効果もあってか、実店舗を中心にかなり売れてるようです。あと、Amazonのレビューは、(本書に限らず)あまり参考にならないものが多いですが、Kumaさんが書かれたレビューは的確で、とても参考になると思います。

ストーリー形式の英語本

ストーリー形式の英語本だと、流水さんとヒロ前田さんの共著、『不思議の国のグプタ』。そして、ヒロ前田さんの単著『TOEICテスト900点。それでも英語が話せない人、話せる人』がありますね。『社会人英語部の衝撃』が気に入った方は、こちらも読んでみるとよいでしょう。英語ストーリー本『不思議の国のグプタ』『社会人英語部の衝撃』

TOEIC指導者の濱崎潤之輔さんがブログで無料公開している、『“確実にスコアアップできる” TOEIC 教材チャート』も、TOEIC学習本選びの参考になると思います。(各記事の下の方にダウンロード先のリンクがあるようです)

 

・・・最後に「The BBB」のコンテンツ紹介をさせて下さい。英語版サイトには、日本の文化・習慣・名所などを紹介する 「Semiweekly-pedia of Japan」コーナーがあります。週2回、月・金に、コツコツ更新中です。

気に入ってくださった方は、お知り合いの「日本に興味のある外国人の方」や「英語指導者の方」などに、情報共有 (Share Information) して頂けると嬉しいです。

それではまた。[更新No.002] 2014/09/30